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区分店舗の投資では、表面利回りが高いだけで「買い」とは判断できません。現在の借主が退去した後も貸せるのか、賃料は相場から外れていないか、区分所有ならではの規約や設備制限はないかまで確認する必要があります。
今回は、株式会社ドリームアシスタントの前田晃介さんが、検討中の千葉駅徒歩圏の区分店舗について私の元へ相談に来てくださいました。前田さんの投資経験や懸念を伺いながら、私が店舗不動産の実務で確認しているポイントに沿って一緒に検討します。
条件が一つ増えるたびに物件の見え方がどう変わるのか、実際のやり取りをもとに購入前の判断軸を整理します。
年間1〜2億円の店舗投資を考える前田さんから受けた相談
今回、私に相談してくださったのは、株式会社ドリームアシスタントの代表取締役・前田晃介さんです。複数のフランチャイズ事業や実店舗事業を運営し、不動産業界とファイナンシャルプランナーの経験も持っています。
前田さんはすでに、立川駅から徒歩圏にあるマンション1階の区分店舗を2区画取得しています。取得額は合わせて約1億6,000万円。
今後も年間1〜2億円ほどの店舗不動産を取得したいと考え、その次の候補として千葉の物件を私の元へ持ち込んでくださいました。
前田さん: 立川の物件はすでに買ったので事後報告ですが、今回は買うかどうか半々です。最後に相談して、判断材料を増やしたいと思っています
くっつー: では、価格や賃料、入居者、契約内容を一つずつ見ていきましょう
相談物件の主な条件は次のとおりです。
| 項目 | 相談時点の条件 |
|---|---|
| 立地 | 千葉駅から徒歩6〜7分ほど、マンション1階の区分店舗 |
| 価格 | 指値後で5,000万円弱を想定 |
| 利回り | 表面約9.9%、管理費等を考慮した実質約9% |
| 築年数 | 40年超 |
| 賃料 | 月額40万円弱 |
| 入居状況 | カフェの賃貸借契約締結済み、入居前 |
| 内装 | 現在はスケルトン。入居者がこれから造作する予定 |
前田さんが店舗取得を考える背景には、自身の事業ネットワークがあります。サロン、飲食店、フランチャイズの関係者に出店希望者が多く、現在のテナントが退去した場合にも、借り手候補を思い浮かべられるという投資仮説です。
前田さん: テナントが抜けたら、知り合いの美容室やFCオーナーへ貸せるかもしれません。自分の投資と、出店したい人の支援をつなげたいと考えています
これは前田さん固有の強みです。一方で、人脈があることと、対象物件が長期的に貸しやすいことは同じではありません。そこで私は、現在の賃料と借主、退去後の状態、借り手の幅、立地、規約・設備を順番に確認していきました。
本文中の価格、利回り、面積、投資目線は、今回の物件と前田さん・私それぞれの条件に基づきます。一般的な購入推奨や収益保証ではありません。
利回り9.9%でも、最初に確認したのは家賃相場
前田さんが最初に確かめたかったのは、月額40万円弱という賃料の妥当性でした。入居契約済みでも、現在の賃料が相場より高ければ、退去後に同じ収入を再現できない可能性があります。
前田さん: 千葉のマーケットに詳しくないので、坪1万円台後半という賃料が妥当なのかが一番気になっています
くっつー: 今日は、過去に預かった中央区の物件資料も持ってきました。駅から少し離れた30坪ほどの物件が坪1万5,000円前後で募集されているので、大幅に外れている印象ではありません
私は、ポータルサイトだけでなく、過去の募集資料や駅前再開発エリアの事例も照合しました。ポータル上で10件に見えても、同じ物件を複数の会社が掲載している場合があります。
表示件数ではなく、実際の物件数に整理して見る必要があります。
前田さん: 駅前の再開発エリアでは坪2万5,000円ほどの事例もありました。今回の賃料は、少なくとも大きく乖離しているわけではなさそうですね
ここまでの確認で言えるのは、「周辺の募集事例と比べて明らかに高すぎるとは言い切れない」という範囲です。募集賃料と成約賃料は別であり、対象店舗の間口、設備、視認性、契約条件でも適正賃料は変わります。
地域の取引価格、地価、都市計画などを確認する際は、国土交通省の不動産情報ライブラリも参考になります。ただし、店舗の成約賃料そのものは、地元の仲介会社、募集履歴、実際の成約事例を組み合わせて確認します。
入居中の賃料だけでなく、次回募集でも同じ水準で貸せるかを確認してから、利回りを判断材料にします。
大企業でも「なぜカフェを始めるのか」が見えない
賃料に大きな違和感がない一方で、私と前田さんに共通して残った懸念が、借主の新規カフェ事業でした。借主は規模の大きい企業で、家賃の支払い能力には安心材料があります。
しかし、会社として信用できることと、新規事業を長く続けることは別です。
前田さん: 母体は大きな会社なので家賃滞納の心配は小さいと思います。ただ、カフェは初めての新規事業で、撤退リスクは別に見なければいけません
くっつー: 私もそこが一番気になります。既存事業とのつながりや、誰がどんな思いでカフェをやるのかが資料から見えませんでした
私はテナントを選ぶとき、会社規模だけでなく「誰が、なぜこの事業を続けるのか」を重視しています。実際に、複数の申込みがあった物件で、賃料の高い申込者ではなく、その場所で事業を続けたい意思が最も強い人を選んだ経験があります。
前田さん: 会社だけを見れば合格です。でも、なぜこの会社がこのカフェを始めるのかは、私も見えていません
くっつー: 偶然、私はその会社の店舗開発担当者とつながりがあります。出店の背景を確認できるので、そこは追加で聞いてみましょう
このやり取りによって、懸念は漠然とした「謎のカフェ」から、確認可能な質問へ変わりました。
- 新規事業の責任者は誰か
- 既存事業とどのような関係があるか
- なぜ千葉のこの場所で始めるのか
- 計画未達のとき、どの条件で撤退を判断するか
- 短期解約時の違約金や保証はどうなっているか
家賃を払える会社でも、不採算事業から撤退することはあります。法人の信用力だけで、店舗の継続性まで評価しないことが重要です。
スケルトンでも、入居決定済みなら評価が変わる
同じスケルトン物件でも、空室のまま買う場合と、入居者が決まって内装工事を始める場合では見方が変わります。私も、入居契約の有無で評価を変えました。
くっつー: 何も決まっていないスケルトンの状態なら、私は買いません。内装工事費が上がっていて、貸主側に負担を求められる可能性もあるからです
前田さん: 次の借り手が決まるか分からず、大家側で工事費を負担することもありますよね
くっつー: 今回は入居者が床、壁、天井、給排水などを造作する予定です。退去後にもその状態を活用できるなら、空室スケルトンより検討しやすくなります
ただし、内装が残るかどうかは期待で決められません。退去時がスケルトン返しなのか、居抜きでの引継ぎを認めるのか、造作や設備の所有権は誰にあるのかを賃貸借契約で確認する必要があります。
前田さんは、短期退去が起きた場合の再リーシングも気にしていました。現在の借主が1年以内に撤退しても、周辺の美容室オーナーなど複数の候補へ声をかけられることを、一つのリスクヘッジとして考えています。
20坪か40坪か。退去後に誰へ貸せるか
物件面積は、坪単価だけでなく賃料総額と借り手の幅を左右します。この論点は、前田さんの具体的な質問から深まりました。
前田さん: 20坪と30坪では、どちらが入居付けしやすいのでしょうか。狭い方は坪単価を上げやすい一方、広い方が使える業種は増えるようにも感じます
くっつー: 私の現場感覚では、20坪と40坪は考えやすい大きさです。20坪は賃料総額を抑えやすく、40坪前後になるとクリニックなど一定規模の企業も候補に入ります
前田さん: 私たちが飲食店を出すときも、月商500万〜600万円規模なら20坪前後を探します。その感覚に近いですね
これは全国一律の正解ではありません。面積だけでなく、地域の出店需要、賃料総額、間口、柱、給排水、電気、排気、避難経路によって候補業種は変わります。
今回の物件で前田さんが考えているのは、「現在のカフェが退去したら誰へ貸せるか」です。美容室やフランチャイズの知人に確認し、この場所なら出店を検討できるという反応も得ていました。一方、ガス容量は大きくなく、本格的な飲食業態には制約があります。
前田さん: 美容室など事業系の候補は考えられますが、ガス容量を踏まえると飲食なら軽い業態に限られそうです。退去後の選択肢を現実的に見ておきたいです
このように、退去後の借り手を「誰か見つかるだろう」ではなく、業種と候補者まで具体化できるかが、前田さんの投資戦略では重要になります。
広いほど良い、狭いほど貸しやすいとは限りません。地域で出店が見込める業種、賃料総額、必要設備から判断します。
立地・管理規約・設備を現地で詰める
賃料、借主、退去後の募集を検討した後、私たちは立地と区分店舗特有の制約へ話を進めました。机上でプラス材料があっても、最終判断には現地と書類の確認が必要です。
千葉駅周辺をどう見たか
前田さんは、運営するフランチャイズ店舗が千葉で新たに開業する予定で、相談物件もそこから徒歩数分にあります。自身が現地へ行く機会が増え、出店者との接点も作りやすいことを購入理由の一つに挙げました。
前田さん: 千葉ではフランチャイズ店舗が好調な印象があります。東京までは出ない周辺エリアの人が、千葉駅へ集まる商圏なのではないかと見ています
私は千葉県で営業職をしていた経験から、駅周辺の再開発や千葉中央駅とのつながりもお伝えしました。一方で、大手ホテルやパソコン専門店などが近隣へ出店していることは参考材料にはなっても、対象物件の収益を保証するものではないと見ています。
くっつー: 大手企業が近くに出店している場所は、立地を考える材料になります。ただ、今回の区画は角地ではなく少し入るので、人通りや視認性、看板の見え方は現地で確認したいです
前田さん: 来週、現地へ行きます。人通りと見え方は自分でも確認してきます
区分店舗は専有部分だけでは決められない
区分店舗では、建築上は店舗でも、管理規約や使用細則によって用途、営業時間、看板、臭気、音などが制限される場合があります。
くっつー: 区分店舗なので、使えない用途や営業時間の制限がないか、管理規約は確認しましたか?
前田さん: 規約は受け取っています。飲食禁止の記載はなく、24時間営業も可能でした。ただ、ガス容量には制約があります
国土交通省のマンション標準管理規約は一般的な確認観点になりますが、購入判断の正本は対象マンションの現行規約と使用細則です。飲食可でも、ガス、電気、給排水、排気の容量が足りなければ、実際に入れられる業態は限られます。
条件を詰めれば検討余地あり。ただし結論は現地確認の後
最後に、私は「条件を詰めれば検討余地はある」とお伝えしました。ただし、購入を即断したわけではありません。
プラス材料と未確認事項を分け、現地確認後に判断するという結論です。
今回確認できたプラス材料は次のとおりです。
- 表面約9.9%、実質約9%という相談時点の収益条件
- 周辺の募集事例から、現在賃料が大きく外れているとは言い切れない
- 入居契約が決まり、借主がこれから内装を造作する予定
- 借主企業には一定の信用力がある
- 前田さん自身に、退去後の借り手候補へ接触できるネットワークがある
- 管理規約上、飲食や営業時間に致命的な制限は見つかっていない
一方、購入前に残っている確認事項があります。
- 借主企業が新規カフェ事業を始める目的と運営体制
- 退去時の原状回復、スケルトン返し、造作の扱い
- 現地の人通り、視認性、看板の見え方
- ガス、電気、給排水、排気の実際の容量
- 築40年超の区分店舗に対する融資条件
- 退去後と売却時の想定賃料・買主・利回り
前田さん: 一番の懸念は、新規カフェ事業がなぜ始まるのかという点です。そこを確認し、現地も見てから決めたいと思います
くっつー: 立地や条件には良い材料があります。だからこそ、借主の事業背景と現地、契約、設備を確認したうえで判断しましょう
相談記事の価値は、結論だけではありません。どの条件がプラスになり、何が未確認だから保留なのかを分けると、自分の物件にも判断過程を応用できます。
よくある質問
Q退去が決まったら、次の募集はいつから始めるべきですか?
退去日が確定してからではなく、解約通知を受けた時点で準備を始めます。退去日、原状回復の範囲、内見可能日、造作・設備の扱いを整理し、現テナントの同意を得たうえで募集開始日を決めます。
閉店情報をつかんでから次の借り手へつなげる具体的な流れも参考にしてください。
Q店舗の入れ替わりが多いエリアは、投資先として避けるべきですか?
入れ替わりが多いだけで、需要が弱いとは限りません。空室が長期化しているのか、閉店後も次の出店が続いているのかを分けて確認します。
飲食店の倒産や撤退を含め、テナントの入れ替わりが仲介機会へつながる市場構造を知ると、エリアの見方を整理しやすくなります。
Q居抜き設備を次のテナントへ引き継ぐとき、誰が故障責任を負いますか?
一律には決まりません。造作・設備の所有者、譲渡対象、引渡し時の状態、保証の有無、故障時の修理負担、退去時の原状回復を契約書と設備一覧で明確にします。
「現状有姿」だけで済ませず、設備ごとの状態を記録することが重要です。責任範囲に争いが生じうる場合は、契約前に専門家へ確認してください。
Q空室が出たとき、自分で借り手候補を見つけられると何が変わりますか?
募集開始を早め、空室期間を短縮できる可能性があります。ただし、候補者がいることは成約や継続入居の保証ではありません。
賃料負担、業種との適合、保証、契約条件まで確認します。取得後の貸し方まで先に考えた事例は、夜逃げ後の店舗を取得した投資事例でも紹介しています。
Q購入前に管理組合へ確認したい資料は何ですか?
管理規約と使用細則だけでなく、長期修繕計画、総会議事録、修繕履歴、管理費・修繕積立金の滞納状況、積立金残高も確認します。
店舗用途では、営業時間、看板、臭気、音、排気、工事申請に関する個別ルールも見落とせません。
Qオーナーチェンジで売却するとき、どの資料を揃えるべきですか?
賃貸借契約書、賃料・敷金、入金履歴、フリーレント、原状回復、テナント情報、管理費・修繕積立金、改修履歴を整理します。
買主が現在の収益と退去後の再募集を検証できる状態にしておくことが、出口の判断を助けます。
まとめ:区分店舗投資は対話で条件を一つずつ詰める
今回の相談では、利回り約9.9%という数字だけで購入可否を決めませんでした。前田さんが実際の条件と懸念を提示し、私が店舗不動産の視点から質問を重ねることで、判断材料が具体化しました。
前田さんの物件には検討材料がありますが、最終判断は借主の事業背景と現地、契約、設備、融資を確認した後です。区分店舗投資では、魅力的な数字を見つけたときほど、現在の満室状態と退去後の貸しやすさを分けて考えましょう。
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